制作会社の見積もりが高い、構造的な理由
制作会社に見積もりを頼むと、なぜ200万から始まるのか。 「ぼったくり」と感じる発注者は多いけれど、 実際にあの値段になるのには構造的な理由がある。 そして、その構造を1段降ろさない限り、どこに頼んでも値段は下がらない。
同じものを作るのに、値段が3倍違う
例として、コーポレートサイト10ページ + 問い合わせフォーム + 簡単な更新機能。 制作会社の見積もりだと、ふつう150〜250万円。 個人法人やマイクロ法人に直接頼むと、同じスコープで40〜80万円。 作るものは同じ。技術スタックも同じか、むしろ個人側のほうが新しいことが多い。 じゃあ何が3倍の差を作っているのか。
値段を作っている5つの構造
① 人件費階層
制作会社で案件1本を回すとき、関わる人は最低でもこのくらいいる。
- 営業(案件取得まで)
- プロデューサー or アカウントマネージャー
- プロジェクトマネージャー(進行管理)
- ディレクター(要件整理、ワイヤー)
- デザイナー
- エンジニア(フロント、バック、それぞれ別の場合も)
- QA / テスト担当
- 役員 / 管理職(最終承認、品質責任)
実工数で動くのはデザイナーとエンジニアの2〜3人だけだけれど、 見積もりには関わる人全員の人件費が薄く乗る。 営業の歩合、プロデューサーのマージン、PM の進行管理工数、役員の承認時間。 これだけで案件原価の半分近くを使う。
② 中間マージン(多重下請け)
大きい案件ほどよくある構造で、元請け制作会社が下請け開発会社に出して、 さらに孫請けに流れることがある。階層が1段増えるごとに、20〜30%のマージンが乗る。
発注者が制作会社に150万払ったとき、 実際に手を動かしている孫請けの個人エンジニアに渡るのは70〜80万、 ということが普通に起きる。差額は中間に消える。 発注者から見ると「150万のクオリティ」じゃなくて「70万のクオリティ」を150万で買っていることになる。
③ リスクヘッジバッファ
制作会社は組織体なので、案件が炎上したときに人を追加投入する余力を持つ必要がある。 「想定の1.5倍工数がかかった」「クライアントから追加要望が出た」のいずれも吸収する責任を負う。
そのためのバッファとして、見積もり段階で実工数の1.3〜1.5倍を載せる。 順調に終われば余剰分が利益になり、炎上すれば余剰分で吸収する。 どっちに転んでも会社として赤字を出さない設計。これは健全な経営の話だけれど、 発注者が払う金額の30〜50%がここに乗っている。
④ 固定費の按分
- 都心オフィスの家賃
- 正社員の社会保険・福利厚生
- 営業ツール(CRM、提案資料テンプレート)の運用
- 会計・労務・法務の管理コスト
- 受注のない月の人件費を持つための内部留保
これら全部が、月に回る案件本数で割られて、1本あたりの見積もりに乗る。 制作会社の規模が大きいほど、1本あたりに乗る固定費が増える傾向がある。 オフィスを構える、社員を雇うという構造を持っている時点で、 1本ごとに「組織を維持するコスト」を払い続けないと回らない。
⑤ 営業コスト
受注した1本に対して、受注できなかった3〜5本の見積もり対応工数がある。 営業マンの稼働、提案書作成、コンペ参加、合い見積もり対応。 受注できなかった分のコストも、最終的には「受注できた案件の見積もり」に分散して乗る。
この「失注分の回収」が、見積もりに対して10〜20%上乗せされる。 営業力の強い会社ほど受注率が高いので相対的に薄く、 新規開拓中の会社や中堅以下ほど厚く乗る傾向がある。
合計でどうなるか
ざっくり、実工数で60万のものに対して制作会社の見積もりを組み立てると、こうなる。
- 実工数(デザイン + 開発): 60万
- + 営業 / PM / ディレクター人件費: +30万
- + 役員承認・管理工数: +10万
- + リスクバッファ(1.4倍): ×1.4
- + 失注分回収(15%): ×1.15
- + オフィス固定費按分: +20万
計算すると、ざっくり180〜220万。実工数60万のものに対して、3〜4倍の見積もり。 ぼったくりじゃなくて、組織を持っている前提だとこの値段にしないと会社として回らない。 これは制作会社が悪いんじゃなくて、構造がそうなっている。
個人法人・マイクロ法人の値段の作り方
対して、個人法人やマイクロ法人が同じものを見積もるとき、 構造的に乗らないコストがそのまま値段から消える。
- 営業・PM・ディレクター・管理職の人件費が乗らない(本人が全部やる)
- 中間マージンが乗らない(直接受注、直接実装)
- リスクバッファは最小限(炎上したら自分の時間で吸収する前提)
- オフィスは自宅か、最小のコワーキング
- 失注分の営業コストもほぼゼロ(受託の比率が低く、紹介で回ることが多い)
この条件で、実工数60万のものは60〜80万で見積もられる。 制作会社の3分の1。同じ仕事だけれど、構造が違うので値段が違う。
発注者が知っておくべきこと
制作会社の見積もりが高い理由を知ると、何を判断材料にすればいいかが変わる。
- 「高い」のは品質ではなく構造のコスト。同じ品質を構造の安いところで買えば、3分の1で済むケースがある
- 大規模案件、長期運用、業種規制対応、SLA担保が必要な案件は、制作会社の構造のメリットが効く
- 小〜中規模で、要件がある程度固まっている案件は、個人法人・マイクロ法人で十分
- 「100万以下なんだから、品質も100万円分でしかない」は誤解。構造の差が値段の差になっているだけ
値段の透明度を上げるという意味で、見積もりを取るときには 「人月単価」と「想定人数 × 工数」を聞くと、構造が見える。 個人法人なら「自分が何時間で作るか」がそのまま値段になっていて、 制作会社なら「何人×何時間 + バッファ + 諸経費」になっている。 どちらが正解という話じゃなくて、案件の規模と要件次第。
mitsumon が前提にしていること
100万以下の案件は、制作会社の構造では赤字になるので扱われない。 ここを成立させるには、構造の安いところ(個人法人・マイクロ法人)に絞って供給を集めるしかない。 これが mitsumon の前提。
「100万以下の見積もりを安く出してくれる制作会社」を探すんじゃなくて、 「100万以下が構造的に正解になる業者」を集めている。 だから、値引き交渉でこの値段になっているわけじゃなくて、 最初からこの値段で回る業者だけを掲載している。